【解決事例7】遺留分減殺請求において、兄弟間の関係が険悪で、請求にも応じなかったが、裁判で妥当な解決ができた事例
【依頼背景】
父親が「長男に全財産を相続させる」という公正証書遺言を作成していました。
相続人は、子供2名(兄弟)です。遺産は、預貯金と複数の不動産がありました。
弟は、当初、適正に算出される遺留分の金額よりも低い金額でもいい、と協議を持ちかけましたが、長男は、非常に低額な金額でしか解決に応じようとしませんでした。
【弁護士の関わり】
兄弟間の、信頼関係が失われていることから、話し合いでの解決は困難と考え、早期に調停を申し立てました。
※遺留分減殺請求案件は、まず調停での解決を図るのが原則です。
調停を申し立てられた相手方(長男)も、弁護士に依頼しました。双方に代理人が付いたことで、法的な部分での争点が整理されました。
当方は、早期解決のために、多少の譲歩の意向を示しましたが、相手は、当初からは金額を加算してきましたが、不動産の評価についての開きが大きく、溝は埋められませんでした。
そこで、調停での解決は諦め、訴訟を提起しました。
裁判においては、裁判官からの和解案が示され、和解案の金額を基準した金額を相手が早期に支払うとの内容の和解が成立しました。和解額は、調停での当方の譲歩額とほぼ同額でした。
【担当弁護士の所感、事件解決のポイント】
家庭内の紛争は、交渉での解決が望ましいと考えますが、他の事件同様に、一度絡み合った糸を解きほぐすのは容易ではありません。
特に遺留分の問題は、請求する側も支払うべき側も一歩も引かないケースがあり、その結果、感情的な軋轢が大きい場合には、裁判もやむを得ないと考えます。むしろ、第三者(裁判所)の判断がないと、なかなか動かないケースも多いのです。
当方依頼者も、当初は、弁護士を立てずに、相場よりも低い金額での解決も受け入れるつもりでした。そこで解決できていれば、相手方にとっても悪い結果ではなかったはずですが、時々の合理的な判断が難しいのも、相続事件の特徴だと感じることがあります。
遺留分侵害額請求に応じない相手への対応方法
遺留分というのは、相続人に保障された権利であるものの、遺留分を請求しても、相手に、無視されたり、ハンコ代程度の回答しかない場合が非常に多いです。
相手からは、「亡くなった人の意思を尊重する」等の理由を言われます。一見すると、もっともな意見ですが、遺留分というのは、亡くなった方の意思を尊重した上での制度ですので(遺留分を支払っても、相手には多くの遺産が残ります)、実は相手の理由は、適切ではありません。
遺留分を請求したのに、相手から満足のいく回答が得られない場合には、法律上、家庭裁判所に遺留分の調停を申し立てることになります。
遺留分の調停・裁判
調停で、合意形成が図れる場合には、そこで解決となります。仮に、調停でも合意ができない場合には、裁判を提起することになります。
弊所の経験上、数回の調停で、ある程度の着地点は見えてくることが多く、裁判まで進むことは多くありませんが、感情的な対立であったり、使途不明金の問題がある場合などは、調停では解決できず(調停不成立、といいます)、裁判を起こすこともあります。
裁判では、お互いの主張が整理され、裁判所から、「和解案」が示され、「裁判上の和解」という形で解決することが多いです。
ただし、遺留分の問題では、実務上、結論が確立していない論点もあり、双方とも、譲歩が難しく、裁判所の最終的な判断を仰ぎたい、という場合もあり、そのような場合は、判決まで行く場合もあります。
そして、判決の結果、どちらかが不満であれば、高等裁判所に控訴、ということもありえます。
遺留分の請求は弁護士に依頼することが最適
このように遺留分の請求は、長期化することもありえるため、当事者の負担は軽くありません。理想をいえば、双方とも相続に詳しい弁護士が早期に代理人に就任し、最終的な解決策を協議できれば良いと思います。もちろん、弁護士は、依頼者の意向を大事にしますので、まず依頼者の希望を優先して、処理方針、解決策を考えます(弁護士が勝手に協議を進めることはいたしません)。

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この記事の監修者について

専門分野
相続遺言、交通事故経歴
秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。
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