民事(家族)信託Q&A

Q1.そもそも信託・民事信託(家族信託)とは何ですか?

A1.信託とは、信頼できる方に対し、自分の財産の名義を移転して、利益を受ける人(受益者)のために、財産を管理・処分させるための制度です。

 

元々は、国から認可を受けた銀行や会社しか扱えないものでしたが、平成18年に法律が改正されて、親しい人に、財産の管理・処分を委ねることができるようになり、老後の財産管理の手法として注目を集めています。

Q2.信託をやってみたいのですが、どうすればいいですか?

A2.信託を始めるには、2つの方法があります。

1つは、委託者と受託者で「信託契約」を締結して始める場合、もう1つは、「遺言」による場合で、委託者本人が亡くなった後に、信託の効力が生じます。

Q3.すぐに信託を使いたい場合は、「信託契約」が必要ということですね。委託者とか受託者というのは誰がなるのですか?

A3.信託の登場人物として、最低限必要になるのは、委託者、受託者、受益者です。

 

委託者とは、財産を提供して、財産管理を託す(お願いする)人です。

 

受託者とは、委託者から財産管理・処分を託される(お願いされる)人です。

 

受益者とは、信託から生じる利益を享受する人です。

 

通常は、委託者は自分のために信託制度を利用しますので、受益者を自分(委託者本人)に設定しますが、例えば、配偶者であったり、子どもなど、自分以外の人を受益者にすることもできます(ただし、贈与税に注意)。

Q4.どのような財産を信託することができますか?

A4.不動産、金銭(現金)、預貯金が典型例ですが、株式、動産、自動車、債権、特許権等の知的財産権も信託をすることができます(ただし、名義の変更に、第三者の承認・承諾が必要な場合もあります)。

また、消極財産(借金など)は信託することはできません。

Q5.信託をすると自分の財産はどう変わるのですか?

A5.所有名義を、ご自分(委託者)から受託者に変更します。

 

不動産であれば、所有権の変更登記をしますし、株であれば、株主名義の記載の変更を求めます。

 

そうすると、自分の財産なのに自分で勝手に管理・処分できない、ということになりますが、その財産から生じる利益(居住権、賃料、売却金など)は、ご自分が受けることができますので、信託前後で、得る利益に変わりはありません。

 

逆に、固定資産税の支払いであったり、家賃の取り立てなどの管理の負担を受託者に代わってもらえるので、負担の軽減になります。

Q6.受託者は、弁護士にお願いしないとだめですか?

A6.そんなことはありません。

民事信託では、誰でも受託者になれますので、多くは、親御さんがお子さんや、子どもがいない場合は甥姪など、下の世代の親類になってもらっています。ただし、未成年者、成年被後見人、被保佐人は、受託者となることはできません(信託法7条)。

 

例えば、信託の途中に、受託者が病気や事故が原因で判断能力を失い、後見人がつくことになってしまった場合は、新たな受託者を選任します (信託法56条1項2号)。

 

また、現状の法体系では、信託業法との兼ね合いで、弁護士などの士業は、受託者となるべきではない、と考えられています。

Q7.先ほどのお話で、受託者に万一のことがあって辞任された場合、次の受託者はどうやって決めればいいんですか?

A7.信託契約締結の時点で、予め、第2受託者を具体的に決めておければいいのですが、その点が不確実な場合には、「第2受託者を選任する方法」を定めておくという方法が考えられます。

 

仮に、そういった規定を設けていなかった場合はどうすればいいか、ですが、受益者が指名するか、誰も指名しないままであれば、利害関係人が裁判所に選任を求めるという方法が用意されています(信託法62条)。

Q8.本当は、長男に受託者をお願いしたいのですが、遠方に住んでいるので、近所の長女にしたほうがいいか、悩んでいます。受託者って具体的に何をする(してもらう)んですか?

A8.まず、受託者の仕事は、信託財産の適切な管理です。

 

不動産であれば、固定資産税の支払いや、修繕、家賃の回収などです。

 

金銭であれば、信託専用口座で、管理して、本人(受益者)のために必要な支出を行い、記録を付けることなどです。もちろん、受託者が自分のために使ったりすることは許されません。

 

信託法上は、善良なる管理者の注意義務、忠実義務、受託者の固有財産と信託財産を分別管理する義務、帳簿作成義務、報告義務などが定められています。

 

親子であっても他人の財産を管理するわけですので、責任は軽くはありません。

Q9.結構厳しいのですね。それなら、子どもには、それなりの対価を払いたいのですが、できますか?

A9.報酬を支払うように、信託契約に盛り込むことができます。

Q10.あと、万一、息子が、誰かにそそのかされて、勝手に不動産を処分して、売却金を横領する。。という不安もないわけではありません。なので、やっぱり信託は怖いかな・・

A10.受託者には、適切な管理・処分ができるように、広い権限が与えられますが、「信託契約」で、受託者の権限を縮小することも認められています。

 

例えば、「受託者は売却処分を行うことができない」とか「売却の際には、受益者の同意を要する」などとい条項を設けることが考えられます。

 

難しいのが、制約を設けるほうが安心ですが、その分、いざというときに機動的な動きができず、困る場合も出てくる、ということです。その辺は、メリット・デメリットを比べて、個別に考えていくことが必要です。

Q11.言われてみるとそうですね。信頼して息子に受託者をお願いするわけですから、権限は広く与えたいと思いますが、受託者が、信託財産の不動産が売却すると、売却代金は、私の口座に入るのですか?

A11.信託財産である不動産の売却代金は、これも、信託財産となりますので、受託者の専用口座で管理されます。このことは、賃料收入、株の配当金なども同様です。

 

では、例えば、売却金の一部で旅行などしたい、という場合もあるかもしれません。その場合、信託契約に、信託財産の一部を受託者との協議で交付を受けることができる、等と定めることで、合理的な範囲で信託財産から交付をうけることができます。

Q12.そういえば、息子には住宅ローンが残っていました。仮に息子が失業して、住宅ローンが払えず、自宅を売却しても、なお、債務が残る場合、息子の名義になった私の財産が差し押さえられたりするのでしょうか・・?

A12.ご心配はごもっともです。そのような不安があると信託制度は利用されません。

 

信託法では、信託とは無関係に負担している受託者の債務については、信託財産は差し押さえの対象にはならないと規定されています。万一、誤って信託財産が差し押さえられた場合には、受託者・受益者は異議を述べることができます。

 

同様に、受託者が破産をしても、信託財産に属する財産は破産財団に属しません。

これは「倒産隔離機能」と呼ばれ、信託制度のメリットの一つと考えられています。

Q13.信託が終了すると、受託者の名義になっている信託財産は自分(委託者)に返ってくる、ということで大丈夫でしょうか?

A13.そのとおりです。

ただし、委託者の死亡まで信託を存続させておくケースがほとんどですので、ご自分の亡くなった後、信託財産を誰に承継させるか、という視点を持って頂けると良いと思います。

信託契約には、遺言のように、信託財産を誰に帰属させるのか、ということまでも決めておくことができます(このような信託を遺言代用信託といいます)。

Q14.信託が終了する場合というのは、どんなときですか?

A14.契約で自由に定めることができます。

 

また、信託法上では、「委託者と受益者の合意」「信託の目的が達成したとき」「受託者が1年以上不在の場合」「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき」などが定められています。

 

当事務所によくお問い合わせいただく相談内容

この記事の監修者について

アイリス仙台法律事務所 代表弁護士 関野純 (仙台弁護士会所属 登録番号35409号)  

専門分野

相続遺言、交通事故

経歴

秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。
相続・遺言の問題でもめている・悩んでいるあなたへ 050-5286-1136

ご相談の流れはこちら

022-398-8671

相続・遺言の問題でもめている・悩んでいるあなたへ

022-398-8671