遺産を独り占めしようとした兄弟に対し、法定相続分を確保できた事案
依頼背景
母親が他界し、相続人は姉弟の2名です。遺言書はありません。姉(Eさん)は結婚を機に家を離れました。弟も就職を機に上京し、母親は一人で暮らしていました。
Eさんは当然に法定相続で解決するものと考えていましたが、弟は、「長男である自分が全部相続する」「嫁いで名字が変わったのだから相続は放棄すべきだ」と強硬に主張し、司法書士に自分の都合の良い遺産分割協議書の作成を依頼し、Eさんに送り付け、署名・押印をするように迫りました。
さらには、無茶な内容にもかかわらず、弟は遺産分割調停を申し立て、調停でも主張を譲りませんでした。
Eさんはどうすればいいか分からず、また、こうした行動をとる弟に恐怖を覚えました。
色々な法律事務所のHPを比較した中から、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
弁護士の関わり
弁護士が代理人として就任し、法定相続を主張したところ、弟は、「寄与分」の主張に切り替えてきました。もっともその理由はどれも疑わしものであり、仮に事実であったとしても、「特別な寄与」とは到底評価できないものばかりでした。
弁護士は、法律的な寄与分の要件を丁寧に書面で説明し、弟が主張する寄与分の事情が、いずれも要件を満たさないことを淡々と主張しました。
それでも弟は、全額ではないにせよ一定額の寄与分を要求する強硬な態度を示しました。
調停委員も「寄与分」が成立しないことは明白であるとの心証となり、弟を説得し、法定相続を前提にした内容での調停が成立しました。
担当弁護士の所感、事件解決のポイント
弁護士が代理人に就くことで、相手の要求が妥当か不当なものかを落ち着いて判断することができます。
調停においても、調停委員は強く発言する当事者になびくこともあるため、注意が必要です(ご本人での対応には限界もあります)。
なお、相手がどうしても要求を取り下げない場合、こちらが譲歩する必要は全くありませんが、調停が不調となり、審判において、不動産は「共有」とされる可能性があることから、それを避けるため、やむなく「大人の解決」を選択肢に入れることもあります。相手に呆れて、見切りをつけ、そんな相手と付き合っても時間と費用を無駄にすることはないという判断も賢明であると思います。
遺産を独り占めされそうなときに弁護士に依頼するメリット
1人の相続人が遺産を独り占めしようとしてトラブルになるケースにはいくつかのパターンがあります。
(1)遺言書で相続人が指定されている場合
(2)1人の相続人が既に、親の預金の引き出しを勝手に済ませている場合
(3)相続人の1人が「自分が全て相続する」と言って、相続を放棄するよう迫ってくる場合
このうち(1)は、遺留分の問題となりますので、遺留分の解決事例などをご覧ください。
また、(2)は、使い込み(使途不明金)の問題となりますので、使い込み(使徒不明金)の解決事例をご覧ください。
このページでは、(3)について解説いたします。
よくあるケースは
まず、おさらいですが、遺産分割協議は、相続人全員の同意がなければ、有効に成立しません。さらにいえば、遺産分割協議書に名前を書いて、実印を押して、ご自分の印鑑登録証明書を渡さなければ、他の相続人は相続の手続きを行うことができません。
つまり、相続財産を独占しようとする相続人は、本当は、他の相続人に、頭を下げて、1人で全ての財産を相続することに対して、理解・同意を得る立場ということになります。
しかし、現実問題としては、特に親と同居されていた子供に多いのですが、「親の面倒を見てきた自分が全て相続することが当然である」という態度で、他の相続人に、相談することなく、勝手に、名義変更に必要な書類を集めて、「ハンコを求める」ことが往々にしてございます。
他人から見れば「そんな勝手な要求は無視すればいい」と思われるかもしれませんが、兄弟や叔父・叔母などから理不尽な「圧力」を受けるほうは、精神的にとても疲弊してしまいます。
なかには、面倒事を避けるため、言われるがまま印鑑を押す方も多いと推察いたします。
ただ、このとき、立ち止まって考えていただきたいことがあります。今回、他の相続人のいうとおりに印鑑を押して、自分は何も相続をしなかったことを、他の相続人が感謝するか、ということです。もちろん、感謝など欲しくて応じたわけではありませんが、将来、ご自身が金銭的に困った場合、他の相続人に、「あのとき、自分は相続しなかったのだから」と援助を申し出ても、おそらく、他の相続人は、「それは当たり前のことだ」という感覚でいるのではないでしょうか。
全てがそうだとは言えませんが、やはり大事な法的問題を考えるにあたっては、「最悪な事態」というのも想定しておく必要があると感じます。
とはいえ、自分では強く言い返すことができない方も多いのです。そんなときに皆様の代わりに他の相続人に対し、毅然と、法律上の権利を主張し、擁護する存在が弁護士なのです。
弁護士はあなたのために交渉を行います
弁護士が入ると、他の相続人は、憤慨するかもしれません。ただ、客観的に見て、あなたが弁護士を頼まざるをえないよう追い詰めたのは、その相続人なのです。あなたは、何も、後ろめたさを感じることはありません。
弁護士は、「相続に関する件の連絡は全て弁護士に寄こすように」と相手に手紙を送ります。弊所の経験上、弁護士の通知を無視する人は、ほぼいません(たまに、直接、本人に手紙を送ってくる人もいますが、よく理解できていないだけで、警告をすればおさまります)。
弁護士は、淡々と、冷静に、遺産分割協議を進めてまいります。
もしも、相手が、冷静に話し合いに応じるのであれば、弁護士から、遺産分割協議の条件を提示し、他の相続人の希望・条件とすり合わせを行い、円滑な解決を目指します。弊所の経験上、相手も、弁護士を依頼した場合、弁護士同士の協議で、遺産分割が早期にまとまる可能性が高くなります。
他方で、相手が、平等な遺産分割に応じなければ、弁護士は、相続財産の調査をし、戸籍を集めて、家庭裁判所に遺産分割調停を速やかに申し立てることができます。
弁護士を依頼している場合、調停には、弁護士のみが出席して進めることが可能です(もちろん、ご本人にも同席していただくことは問題ありません)。
相続は専門用語が多い紛争類型です。相手の主張に対し、弁護士のほうで、「無視していいか」「反論が必要か」「検討が必要か」と、区別いたしますので、皆様は、必要な事柄だけ考えていただくことができます。
相手が、生前贈与を受けていたり、生前に勝手に入院していた親の預金から引き出しをしていた場合には、法定相続分以上の財産を取得できる場合もあります。これらの問題は、弁護士を依頼しなかった場合には、問題とすらされなかった事柄です。
以上のとおり、弁護士の支援を受けることで、他の相続人と「対等」な立場で、話し合いに応じることができますし、あなた自身が実際の話し合いに参加しなくても良くなります。
相続における弁護士の影響は、とても大きいものと実感しておりますので、お1人で対応されることにス
トレスを感じられている場合、ぜひ、弁護士にご相談にいらしていただけると幸いです。
私たちは、相続に悩まれる皆様のお力になれることを、一緒に考えさせていただきます。
当事務所によくお問い合わせいただく相談内容
この記事の監修者について
アイリス仙台法律事務所 代表弁護士 関野純 (仙台弁護士会所属 登録番号35409号)専門分野
相続遺言、交通事故経歴
秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。022-398-8671
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