【弁護士が解説】社長の相続でご家族が知るべき「紛争の種」と解決策
会社のトップ(社長)がお亡くなりになったとき、残されたご家族には深い悲しみとともに、想像以上に複雑な「相続」という現実がのしかかってきます。
「私はまだまだ元気だから心配するのは早すぎる」
「うちは家族の仲が良いから、遺産分けで揉めるはずがない」
「会社のことは後継者(長男など)に任せておけば大丈夫だろう」
そう思われている方が大半だと思いますが、実は、社長(経営者)の相続は、一般的な個人の相続とは異なり、ご家族間に特有の「紛争の種」がいくつも潜んでいます。
本記事では、これまで数多くの相続トラブルを解決に導いてきた相続専門の弁護士が、法律に詳しくない方にもわかりやすく、社長の相続における注意点と解決策を解説します。
社長の死後、会社と個人財産はどうなる?
社長が亡くなったとき、勘違いされがちなのが「会社の財産」と「社長個人の財産」の混同です。
大前提として、法律上、「会社の財産」と「社長個人の財産」は明確に別物です。
社長が亡くなったからといって、会社の預貯金や不動産をご家族で勝手に処分することはできません。
ここで非常に重要なのが「自社株(会社の株式)」の存在です。
中小企業の場合、社長が自社の株式の大部分を個人的に所有しているケースがほとんどです。この「自社株」は社長個人の財産であるため、ご家族による相続の対象となります。
つまり、社長の相続では、ご自宅の土地や個人の預金だけでなく、「この自社株を家族の誰が相続するのか」が、極めて重要なテーマになります。
社長の遺言書は絶対ではない?「遺留分」という家族の権利
会社を継ぐ方(たとえば長男)がいる場合、社長が次のような遺言書を残していることがよくあります。
「長男に、自社株を含むすべての財産を相続させる」
長男がスムーズに会社を引き継げるためには理にかなった内容ですが、他のご家族(妻や次男、長女など)からすれば「自分たちは何ももらえないのか」と不満を抱く原因になり、家族関係に亀裂が入ってしまいます。
法律上、遺言書があったとしても、残されたご家族には「遺留分」という最低限の遺産を受け取る権利が保障されています。
もし、次男や長女から「自分の取り分(遺留分)を現金で払ってほしい」と請求された場合、長男は、多額の現金を支払わなければなりません。
業績が良い会社ほど自社株の評価額は高くなるため、十分な金額が支払えずに兄弟間で深刻な裁判トラブルに発展するケースが後を絶ちません。
社長の相続財産のどのようなものがあるのか?
社長の遺産には、一般の方にはない特殊なものが含まれます。ご家族が把握しておくべきものを整理しましょう。
相続の対象になるもの
自社株(株式):
最も取り扱いに注意が必要な財産です。
社長個人の財産:
ご自宅の不動産、個人の預貯金、有価証券など。
社長の会社への貸付金:
社長が個人資産から会社に貸し付けている場合、ご家族は「会社」に対して「お金を返してくれ」と請求する権利を相続します。帳簿上、多額の貸付金が残ったままの会社は少なくありません。
連帯保証の借金(マイナスの財産):
会社が銀行から借金をしている場合、社長個人が連帯保証人になっていることがあります。この「保証人としての債務」もご家族に引き継がれてしまうため、注意が必要です。
社長が亡くなっても相続の対象にならない財産
会社名義の財産:
会社名義の預金口座、会社の社屋や営業車などは、遺産分割の対象にはなりません。
死亡退職金・生命保険金:
受取人として指定されている方が受領します。家族で分け合う遺産には含まれません。(※ただし、相続税の計算上は財産としてカウントされます)
株式は遺産分割できるのか
「兄弟で揉めないように、自社株も平等に3等分しよう」
この方法は、一見公平に見えますが、株式をご家族で均等に分けることは絶対におすすめしません。
株式を分散させると、将来会社の重要な決断をする際に兄弟間で意見が対立し、会社が身動きを取れなくなってしまいます。結果的に「あの時株を分けてしまったせいで…」と、後々ご家族同士で恨み合う原因になってしまいます。また、株を再度集めることは一般的に困難を伴う事が多いです。
株式は後継者に集中させるのが原則です。
円滑な事業承継のための生前対策
こうした「ご家族間の争い」や「突然の借金」を防ぐためには、社長がお元気なうちの「生前対策」が不可欠です。
実効性のある遺言書の作成
単に「長男に譲る」だけでなく、他のご家族の「遺留分」にしっかり配慮し、全員が納得できるような付言事項(社長からのメッセージ)を添えた遺言書を作成します。
遺留分を支払うための現金の準備
後継者が他のご兄弟に現金を支払えるよう、生命保険などを活用して「代償金として払うための資金」を生前から準備しておきます。
生前贈与の活用
元気なうちから少しずつ自社株などを譲渡(売買もしくは贈与)しておくことで、将来の相続トラブルのリスクを減らします。
社長の相続の注意点
すでに社長の相続が発生している場合、ご家族は以下の点に特にご注意ください。
多額の相続税が発生するリスク
「うちは小さな会社だから」と思っていても、税務署のルールで計算すると自社株の評価額が跳ね上がり、ご家族に多額の相続税が生じることがあります。
知らない間に借金を背負うリスク
連帯保証債務に気づかずに放置すると、ある日突然、銀行からご家族宛に一括返済の請求が来る恐れがあります。
期限が非常に短い
借金などの相続を放棄する「相続放棄」は死後3ヶ月以内、相続税の申告は死後10ヶ月以内という期限があります。ご家族で揉めていたり、対応を怠ると、すぐに期限切れとなってしまいます。
弁護士にご相談ください
社長の相続は、単なる財産の分け合いではありません。
対応を間違えると、様々なトラブルに巻き込まれることがあります。
私たち相続専門の弁護士は、税理士や司法書士では対応できない「ご家族の感情的な対立の調整」や「遺留分をめぐるトラブルの予防・解決」のプロフェッショナルです。
「社長である父が亡くなったが、借金や保証人がどうなっているか分からない」
「会社を継ぐ兄から、一方的にと遺産分割協議書を渡された」
「社長の元気なうちに、家族が揉めないための準備をしておきたい」
このようなご不安を抱えているご家族は、トラブルが深刻化する前に、当事務所へご相談ください。
ご家族皆様が納得し、安心して前を向けるよう、法的な観点からサポートいたします。
当事務所によくお問い合わせいただく相談内容
この記事の監修者について
専門分野
相続遺言、交通事故経歴
秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。022-398-8671