財産管理をしていた長女が財産を使い込んでいたが、正当な手続きによって遺産を取り戻した事例

事例詳細

依頼背景

父親が他界しました。長女が同居しており、亡くなる前の父親の財産管理を事実上行っていました(入院や施設入所にあたり、親が子に預金通帳や印鑑の管理を依頼し、親が認知症等になってもそのままになっているケースは珍しくありません)。遺言書はありません。

 

長女からは、「父親には遺産は全くない」とし、通帳の開示も拒んでいました。次女のDさんはどうしたら良いか分からず、弁護士にご相談にいらっしゃいました。

 

  • 弁護士の関わり

使途不明金が問題となるこのようなケースでは様々な可能性が考えられます。

 

想定されるケース1:父親の財産を使い込みしていた

多いのが、長女が生前から父親の財産を使い込み(横領)していたことが疑われるケースです。

通帳・印鑑、キャッシュカードを管理しているため、事実上、フリーパスで父親の預貯金を引き出すことが可能です。金額が大きければ、金融機関も本人確認や委任状を求めるのですが、特に地方の金融機関では徹底されているか疑問もあります(父親の死後、100万円単位の預金を勝手に引き出されていたケースもありました)。

 

想定されるケース2:贈与を受けた、と主張される

次に考えられるのが、長女が父親から贈与を受けた、という主張です。

この場合は、贈与を受けた証拠の提出を求めますし、多額であれば「特別受益」に該当し、贈与された金額も含めて遺産相続しなければならないことを主張します。
なお、相手からは「持戻し免除の意思表示」があったと再反論される可能性があります。

 

 

この事例の場合

弁護士としては、まず、使途不明金の額を特定する必要があるので、相続人の代理人として、金融機関に故人との取引履歴を調査しました。すると、生前の故人の生活水準と照らして、明らかに多額な引き出しが目についたため、同居していた相続人による使い込みが強く疑われました。

 

当事務所から相手方に対し、具体的な不合理な点を指摘し、使途不明金も相続財産に含めて遺産分割し、Dさんの相続分を支払うよう請求しました。

 

なお、Dさんが全面対決までは望んでいなかったことから、早期にこちらの条件に応じれば、一定額を経費としてみるという譲歩した内容にしました。

 

長女は、通知が届いた数日後に、当方の請求通りの金銭の支払いに応じました。

  • 担当弁護士の所感、事件解決のポイント

使途不明金・使い込みが疑われる事案では、疑う側(請求する側)に立証責任が課されていますので、具体的に、どの程度の金額が使途不明なのかを把握する必要があります。

 

また、相手からは様々な弁解が出てきますので、その弁解が不合理であり信用できないことも積極的に訴えていく必要があります。

 

なお、遺産分割調停においては使途不明金の問題は残念ながらあまり取り上げてもらえないことが多いので(家庭裁判所は使途不明金については熱心ではない)、事案によっては、家庭裁判所への遺産分割調停ではなく、正式な民事裁判の手続きを選択することもあります

 

遺産が使い込まれてしまった場合に弁護士に依頼するメリット

使い込み特有の問題について

遺産分割や遺留分のご相談において、亡くなった方の生前や死亡後の預貯金の不自然な引出しについてどのように対応すればよいのか分からない、といった相談が寄せられます。

 

一般的に、使い込み(使途不明金)の問題といいますが、使い込みを相手が否定してくるリスクを常に考える必要があります(ご相談のなかには、「犯人はあいつ以外にありえない。あいつが勝手に親の口座を解約したんだ」という強い認識でお越しになる方もいますが、そう単純ではありません)。使い込みは、とても難しい問題なのです。

 

まず、生前の引出しについて考えますと、本人が元気だったときの引出しは、原則、使い込みの問題にはなりません。本人が自分で管理できるわけですから、本人による引出しとなるか、もしくは、生前贈与に該当するかを検討します。

 

次に、本人が認知症になったり、施設に入所したりして、自分では通帳や印鑑の管理、引出しができない場合の引出しです。多くのケースでは、相手は、引き出した行為自体は認めますが、

 「親に頼まれて、親に渡した。後は知らない。」 

などと弁解します。この場合、認知症の親に多額の現金を渡す行為が正当なものであったか否かを問題とします。

 

また、 「自分は引き出していない」 と弁解される場合もあります。

 

この場合、責任を追及する側で、相手が親の口座から引き下ろしをしていた前提として、相手が親の通帳を管理していた事実とを証明しなければなりません。

 

最後に、死亡後の引き出しについては、葬儀費用に充当した、という説明が多いです。この場合、葬儀費用を遺産から支出することに応じるかどうか、が問題となります。

 

最後に、使途不明金は、その「全額」を請求できるわけではなく、法定相続分(もしくは遺留分)の範囲に限って、請求をすることができます。

 

仮に使途不明金が1000万円あるとしても、請求する側の相続分が3分の1、であれば、333万円の請求となりますので、注意が必要です。

 

対応方法(調査・分析)

使途不明金の全容を明らかにする必要があります。被相続人が口座を持っていたと思われる銀行に取引履歴の開示を請求します。

 

なお、通常、金融機関の取引履歴の開示は、請求時からさかのぼって10年間ですので、着手が遅くなるほど、開示を受けられる記録も少なくなることに注意が必要です。

 

亡くなった被相続人の履歴の開示方法は、銀行ごとに書類が異なりますし、慣れていないと、せっかく苦労して取得した取引履歴が不十分であり、取り直しが必要となることもあります。

 

取引履歴は様々な情報が盛り込まれており、かつ、銀行ごとに記載内容も異なります。和暦と西暦がごっちゃになるので、慣れていても、分析には時間がかかりますし、全ての銀行口座の動きを把握しないと、実は他の口座に振り返られていただけであり、使途不明金ではなかったのに、使途不明金として扱ってしまい、結果的に不当請求をしてしまった、ということもあります。

 

 紛争で重要となるポイントを把握できることに長けているのが弁護士です。 単に、興味本位で知りたい、というのではなく、調査の結果、しかるべき責任追及を視野に入れていらっしゃるのであれば、調査から弁護士に依頼することが大事になります。

 

具体的な請求(弁護士に依頼するメリット)

調査の結果、使途不明金の全容が把握できたら、次に、責任追及(返還請求)に移ります。

 

このとき、調査や分析は弁護士に依頼し、交渉はご自身で行いたい、という方もいらっしゃいます。

 

この場合、交渉の「目的」が、金銭の請求ではなく、謝罪であったり、仲直りである場合は、ご自身で話し合うことも選択肢に入ると思います。

 

しかし、交渉の「目的」のなかに、金銭の請求が含まれているのであれば、ご自身での交渉は百害あって一利なし、となる危険性があります。
さらに、「どうやって交渉したらいいですか?」と、交渉のススメ方のイメージを持つことができない場合は、感情的な言い争いに発展し、合理的な着地点を早期に見出すことができずに、調停や裁判にまで発展しかねません。

 

特に、使い込みの請求で弁護士に依頼しない、というのは、相手からすると、調停や裁判という不安が消え、「支払いを拒否しても大丈夫。」という安心感を与えてしまうおそれがあります。弁護士を依頼しない以上、具体的な交渉を始めることすら難しい(拒否される)ケースが多いのです。

 

しかし、 弁護士が関与することで、相手も真剣に対応せざるをえなくなりますし、弁護士は、調停や裁判を見据えた交渉ができますので、相手が法的に意味のない主張を重ねてきても、堂々と相手の主張を拒否することができます。 

 

その結果、相手が、何ら正当な理由がないのに、わがままで支払いに応じない、という状況を作ることができ、調停や裁判において有利に物事を進めることができます。

 

 使い込みの問題は、「弁護士が入るから長引く」ではなく、「弁護士が入らないから解決しない」問題なのです。 

 

当事務所では、多くの使い込み問題を解決した実績があります。このサイトで、一部を紹介しておりますので、併せてご覧いただけると幸いです。

 

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この記事の監修者について

アイリス仙台法律事務所 代表弁護士 関野純 (仙台弁護士会所属 登録番号35409号)  

専門分野

相続遺言、交通事故

経歴

秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。
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