【2020年7月最新版】相続法改正の8つのポイントを徹底解説

2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました(同年7月13日公布。2019年7月1日施行)。

今回の相続法改正の主な背景には、「配偶者に先立たれた高齢者に対する生活に配慮」「相続をめぐる紛争予防のための遺言書の利用促進」があります。

以下、当事務所で扱う案件に対して影響が高いと考えるものから順に解説していきます。

 

1 自筆証書遺言の方式の緩和

これまでは,自筆証書遺言を作成する場合,その全文を自書する必要がありました。つまり,自筆証書遺言の一部をパソコンで作成したり,自筆証書遺言に銀行通帳のコピーや登記事項証明書を添付したりすることが一切認められていませんでした。

しかし,これでは,自筆証書遺言に財産目録を付ける場合,これを全て自書しなければならず,自筆証書遺言の作成には多大な手間がかかっていました。

そこで,法改正では,自筆証書遺言のうち,財産目録については,その全てのページに署名押印をすれば,自書する必要がなくなります

そのため,財産目録をパソコンで作成したり,銀行通帳のコピーや登記事項証明書を財産目録として自筆証書遺言に添付したりすることが可能となります。

2 自筆証書遺言を法務局で保管

これまでは,公正証書遺言については,公証役場で保管されていましたが,自筆証書遺言については,そのような制度はありませんでした。そのため、遺言者本人が保管している場合,相続人が遺言書を発見できないリスクや,盗難や紛失,改ざんのリスクがありました。

そこで,法改正では,自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました(画像データとしても記録されることになります)

これにより,自筆証書遺言の保管場所が明確となり,盗難や紛失,改ざんのリスクがなくなりました。

法務局が保管している間,遺言をした人は,いつでも,これを閲覧することができますし,その保管を途中でやめてもらうことができます。

また,自筆証書遺言を法務局に保管してもらう場合には,遺言書の「検認」が不要となりました

「検認」の申立てをするには、戸籍謄本などの書類を集めなければならず,また管轄の家庭裁判所が遠方である場合もあり、相続人にとって大きな負担となっていました。

※検認・・死後に、相続人全員が集まり、遺言書を確認する手続きで、自筆証書遺言の場合は、必須の手続

以上、①②ともに、遺言を残しやすくなる方向での改正となっており、誰もが当たり前に遺言を残す、「遺言社会」が近づく一歩になると考えられます。

3 「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」に変更

これまでは,贈与や遺言で遺留分を侵害された相続人が、「遺留分減殺請求権」を行使すると,遺留分権利者の遺留分を侵害する限度で,遺産は「共有関係」となりました。

遺産が共有状態になると,例えば,遺言により単独で相続したはずの株式が共有状態となってしまい,事業承継に支障が生じます。また,不動産の売却には全員の同意が必要となるなど,持分権の処分に支障が出ていました。

そこで、改正法では,遺留分権利者は,遺留分義務者に対し,遺留分侵害額に相当する「金銭の支払い」を請求できるように変更しました

また、受遺者(遺留分義務者)が、金銭を直ちに準備できないには、遺留分義務者の利益を守るため、支払につき,裁判所が相当の期限(猶予)を決めることができるようにもなりました。

 

 遺留分を算定するための財産の価額に算入される贈与の範囲が変更

これまで,相続人に対する贈与(特別受益)は、時期を問わず、遺留分を算定するための財産の価額に加わるとされてきました。

※特別受益とは,婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与のことをいいます。

しかし,法改正により,相続人に対する贈与は,「相続開始前の10年間にされた特別受益としての贈与のみ」が遺留分を算定するための財産の価額に改められます

「10年」という区切りは、金融機関の取引履歴の保存義務期間とも合致します。

例えば、事業承継で、自社株を、後継者となる相続人に贈与していた場合、これまでは、15年前、20年前の出来事でも、遺留分の対象となり、相続発生時に、紛争になりましたが、今回の改正では、他の相続人は、遺留分侵害として主張することができなくなります。

受益者にとっては極めて有利となる反面、受益者以外の相続人にとっては、従来よりもかなり権利が制限される内容となります。

※相続人以外の者に対する贈与は,これまでどおり,その範囲に変更はありません(「相続開始前の1年間にした贈与」もしくは「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与」)

 

5 配偶者の「居住権」を保護する規定を新設(2020年4月から施行)

(1)配偶者居住権

住宅の権利を「所有権」「居住権」に分け、配偶者が居住権を選択すれば、所有権が別の相続人に渡っても、終身または一定期間、引き続き住むことができるようになります。

完全な所有権とは異なり、譲渡することや自由に増改築や第三者に貸したりすることができない分、「居住権」は「所有権」に比べて低額な評価となるため、配偶者は自宅に住み続けながら、預貯金等の生活資金を従来よりも多く相続することが可能となります。

(2)配偶者短期居住権

配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、「遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間」又は「相続開始の時から6か月を経過する日」いずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができるようになります。

遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合など居住建物の所有権を取得した者は、いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができますが、配偶者はその申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間、引き続き無償でその建物を使用することができます。

 

6 遺産分割等に関する見直し

(1)持戻免除の意思表示の推定

現行制度は、夫が妻に対して、居住不動産を生前贈与した場合、遺産の先渡しを受けたものとして評価されるのが原則となりますが、改正により、「婚姻期間が20年以上」である夫婦の一方配偶者が,他方配偶者に対し、その「居住用建物又はその敷地(居住用不動産)」を遺贈又は贈与した場合は、「持戻しの免除の意思表示」があったものと「推定」し、遺産分割においては、原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要とすることになりました。

(2)遺産分割前の預貯金の払戻制度の創設

現状は、預貯金債権は相続人全員の合意がないと払戻ができません。

しかし、改正法では、各共同相続人は、「遺産分割協議成立前」であっても、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに、預金残高の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)を限度とする。)までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるようになります。

これにより、他の相続人の協力が得られなくても、一定の生活資金や葬儀代等が確保できるようになります。

 

7  相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

現行法では、相続人が寄与行為(療養看護等)を行った場合、条件を満たせば、「寄与分」が認められる場合がある一方、「相続人以外の者」の寄与行為は原則、影響を与えることはありませんでした。

改正法では、相続人以外の親族(典型例は長男の妻)が療養看護等を行った場合、一定の要件のもと、相続人に対して金銭を請求することができるようになりました。

8 相続の効力に対する見直し

相続させる旨の遺言等により承継された財産については,登記なくして第三者に対抗する

ことができるとされていた現行法の規律を見直し,法定相続分を超える部分の承継については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになりました。

 

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この記事の監修者について

アイリス仙台法律事務所 代表弁護士 関野純 (仙台弁護士会所属 登録番号35409号)  

専門分野

相続遺言、交通事故

経歴

秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。
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