遺言には何を、どう書いたらいいの?【実際の相談事例と例文】
遺言書はご家族の揉め事を防ぎ、また、実情にあった柔軟な相続を実現できる手段です。
ただし、法律上、遺言で実現できることは決められており、何でも実現できるわけではありませんので、ご自分の希望が、有効なものかどうかは、ご相談ください。
(参考)遺言で決めておくことができもの
1 財産に関すること
□相続分の指定 □遺産分割方法の指定 □遺言執行者の指定 □遺留分減殺の方法の指定 □遺産分割の禁止 □特別受益(生前贈与・遺贈)の持戻免除 □遺贈
□信託の設定 □法人(社団・財団)を設立するための寄付行為 □担保責任の指定
2.その他
□祭祀承継者の指定 □過去の遺言の撤回 □生命保険金の受取人の指定、変更 ❏認知 □未成年後見人及び後見監督人の指定 □相続人の廃除・取消
ここでは、実際の相談事例と、それを踏まえた条文のサンプルをご案内いたします。
なお、記載方法等によっては、思い通りの効果が生じない場合もありますので、弁護士に相談しながら作成することをおすすめします。
相談者A
相談内容
「推定相続人は長男,二男,長女の3人。私は、長男と同居しているが,長女と二男は10年以上前に家を出て行ってしまった。長男に自分の跡を継がせようと考えており,長男に遺産全部を相続させたい。」
遺言の内容の解説
この場合、遺言は、シンプルに「遺言者は,遺言者の有する財産全部を遺言者の長男に相続させる。」とすれば足ります。
ただし、長女と次男は遺留分を有していますので,仮に遺留分減殺請求をされた場合には,長女と二男にも一定の金銭を支払う必要があることに注意が必要です。
相談者B
相談内容
「法定相続人は長女,二女。2人は,昔から仲が悪い。私は二女と同居しており,二女に遺産を多めに相続させたいが,その内容では、長女が不満を言って、揉めるのは確実である」。
遺言の内容の解説
このように、遺産分けで揉めるのが確実であれば、遺言を残しておくことが、結果的に双方にとって紛争回避の利益となりますので、ぜひ残しましょう。
遺言の内容としては、長女の遺留分を侵害しない範囲で、二女に多めの相続させることとして、かつ、遺言執行者として、相続の専門家である弁護士を指定することが望ましいです。
仮に、遺言執行者を二女にしてしまうと、長女は、「二女が有利に書かせた」という疑念・不審・不満を抱き、無用なトラブルを巻き起こしかねないからです。
なお、具体的な財産で分け方を指定するほかに、「二女に4分の3,長女に4分の1」というように相続分で指定することもできますが,相続分で指定すると,遺産の分け方でもめることになりますので、具体的に財産ごとに指定する方法が適切といえます。
以上の点を踏まえると,次のような表記になります。
第1条 遺言者は,遺言者の有する次の財産を,遺言者の長女に相続させる。
◯◯銀行の預貯金全部
第2条 遺言者は,次の財産を含む,前条以外の遺言者の有する全財産を二女に相続させる。
(1)土地
※土地を特定する情報を記載
(2)建物
※建物を特定する情報を記載
(3)預貯金
✕✕銀行の預貯金全部
第3条 遺言者は,この遺言の遺言執行者として,弁護士◯◯を指定する。
※遺言執行者の住所、職業、氏名、生年月日を記載
相談者C
相談内容
「推定相続人は,長男,二男。私は,会社を経営しており,自社株がある。長男に経営を引き継がせたいと考えているが、二男にも長男と同程度の財産を相続させたい。」
遺言の内容の解説
長男に会社の経営を引き継がせたいということですので,自社株は長男に全て相続させることが必要です(なお、株を2分の1ずつ相続させている例がありますが、経営の観点からはおすすめできません)。
他方,二男にも長男と同程度の財産を相続させたいということですので,長男と二男が相続する割合は2分の1ずつとします。
そして,自社株の額がその他の財産の額を上回るような場合には,二男も2分の1の割合で相続できるように,長男が二男に代償金を支払うという形で双方の相続分が同じになるように調整することが考えられます。
遺言条項としては、第1条では、株式を長男に相続させる、として、第2条で「遺言者は,前条の財産を含む遺言者の有する一切の財産を,いずれも,長男及び二男に2分の1ずつの割合により相続させる。ただし,○○株式会社の株式全部の価額が相続財産の総額の2分の1を超えるときは,長男は,二男に対し,その超える額の2分の1を代償金として支払うものとする。」という内容にすることが考えられます。
相談者D
相談内容
「推定相続人は、長男と長女。長男の妻は浪費家で、折り合いも悪い。長男や孫には遺産を残したいが、長男の妻に渡るのを防ぎたい。」
遺言の内容の解説
一つの対処として、預貯金などの流動性の高い財産は長女に相続させ、不動産などの換価が難しい財産を長男に相続させる、とすることが考えられます。
なお、仮に、長男の子どもがいない場合もあります。この場合には、「民事信託」という制度を使うほうが適切だと思われます。
最後に
このように,遺言は,遺言者が自分の事情やニーズに合わせて自由にその内容を決めることができます。他方,あまりにも複雑な内容にしてしまうと,本当に遺言者の意思に基づいて作成されたのかが疑われ,
後々,遺言の効力が争われる可能性もあります。また,ご自分の力だけでは,実現したい財産の分け方を文章で正確に表現できるとは限りません。
遺言を作成するのは一生に一度のことです。ご自身で考えることも大事ですが、最後には、専門家にご相談いただくことも大事だと思います。
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この記事の監修者について

専門分野
相続遺言、交通事故経歴
秋田県出身。千葉大学卒。2005年に司法試験に合格。司法修習を経て、2007年に仙台弁護士会の弁護士に登録。仙台市内の法律事務所に勤務後、2011年に事務所(現・アイリス仙台法律事務所)を開設。直後に東日本大震災が発生し、事務所は一時休業になるも、再開後は被災者の再建支援、相続問題や不動産の賃貸借トラブルを多く依頼される。 現在は弁護士2名、スタッフ3名の事務所の代表弁護士として活動している。また、仙台市内で相続問題や家族信託に関するセミナーの開催や相談会の開催など、地域の高齢者問題に積極的に取り組む。
022-398-8671